「割れ」「捻転差」「ヒップ・ショルダー・セパレーション」。骨盤が先に回り、胸郭が遅れてついてくる、あの動きです。
プロの連続写真で見る、あの形。
この動きが上手い打者の特徴であることは、多くの研究で一致しています。ただ、「だから捻転差を大きくする練習をすれば速くなる」かどうかは、別の問いです。
近年の研究は、その問いに意外な答えを出しています。
1. 上手い選手ほど、捻転差は大きい(これは確か)
- 熟練した大学選手8名と未経験者9名を比べると、上胴と骨盤の回転角、両者の分離は熟練者で有意に大きく、動きのばらつきは小さかった(Nakata ら2014)
- 熟練した少年12名と成人12名では、成人の方が上胴の回転速度が速く(857 vs 717°/s)、バット速度も速い(30 vs 25 m/s)(Escamilla ら2009)
- 6〜12歳を3シーズン追った縦断研究では、上胴と骨盤の分離角は12〜13歳で11歳より有意に大きくなり、スイング速度は U8 の66km/hから U13 の95km/hへ伸びた(筒井ら2023)
「上手い」「大人」「年長」ほど捻転差が大きい。これは繰り返し観察されています。
2. ところが、同じレベルの中では関係が薄い
2023年、米国スポーツ医学研究所(ASMI)のグループが、大学野球選手20名のティー打撃を、モーションキャプチャと両足の下の計測板で測りました(Orishimo ら、Sports Biomechanics)。バット速度との相関を調べた結果です。
| 項目 | バット速度との相関 |
|---|---|
| 骨盤の最大回転速度 | 無視できる程度 |
| 体幹の最大回転速度 | 無視できる程度 |
| 捻転差(hip-shoulder separation) | 無視できる程度 |
| 前脚が地面を垂直に押す力 | r = 0.62 |
| 前脚の後方へのブレーキ力 | r = −0.57 |
| 前脚の合成力 | r = 0.66 |
同じ大学生の集団の中では、「どれだけ捻ったか」「どれだけ速く回したか」ではなく、前の足でどれだけ地面を押せたかがバット速度の差を説明していました。
マイナーリーグの打者33名を実投球で測った博士論文(Fortenbaugh 2011)でも、骨盤の最大回転速度が最小の選手と最大の選手で、打球速度の差はわずか0.9m/s。実質、無関係でした。
3. なぜこうなるのか
考えられる説明は2つです。
(1)捻転差は「結果」だから。 前脚で地面を押し、骨盤が先に回れば、胸郭は慣性で遅れます。
捻転差は、良い順番で回った「結果」として現れます。結果を先に作ろうとしても、原因(地面を押す力と順番)が変わらなければ速くなりません。
(2)成長で自然に出てくるから。 筒井らの縦断研究は、6〜12歳で捻転差が発達するのは11〜13歳頃であることを示しました。
小学生に成人の捻転を要求しても、体がまだそれを作る段階にない可能性があります。
4. 「捻転差を教えて速くなった」研究は、まだない
正直に書きます。捻転差や運動連鎖を「指導して」バット速度や打球速度が上がったことを示した介入研究は、今回の調査では見つかっていません。
あるのは「上手い選手はそうしている」という観察と、「同じレベル内では相関が薄い」という反証です。
一方で、介入で効果が示されているものはあります。高校生49名を12週間追ったランダム化試験(Szymanski ら2007)では、筋トレに回旋メディシンボール投げを加えた群で、体幹の回旋筋力が17〜18%、バット速度も大きく伸びました。
回旋の「力」を鍛えることは、捻転の「形」を教えることより、証拠があります。
5. 指導者への提案
- 捻転差を「作らせる」より、前脚で地面を押せる環境を作る。踏み込む足の位置、打つ方向の目標、体に合ったバットの重さ
- 小学生には成人の捻転を要求しない。11〜13歳で自然に出てくる。それまでは頭の安定、全力で振る習慣、芯で捉える経験
- 中学以降は、回旋の力(メディシンボール)と下半身を育てる。形は後からついてくる
- 捻転差は「見る」指標としては有効。動画で年々大きくなっていれば、成長と順番が整っている証拠
捻転差を軽視する話ではありません。上手い打者の特徴であることは確かです。
ただ、それは目的ではなく結果で、原因が違えば、必要な練習も違います。
本記事の数値は第三者の研究・計測データであり、当塾の指導実績ではありません。研究の対象年代・条件は本文と出典に記載しています。