「毎日素振り100本」。野球を始めた子の最初の宿題で、親が一緒に数えた家庭も多いはずです。
素振りは効きます。研究でもそうです。
ただ、同じ100本でも「何を変えながら振るか」「何を記録するか」で、身につくものが変わります。この記事は、素振りをやめる話ではなく、同じ時間で効きを上げる話です。
1. 素振りは効く。研究でも
大学生24名を3つのグループに分け、6週間、週3日、100本の素振りをさせた研究があります(Sergo & Boatwright 1993)。通常のバット、重いバット、重いバットと軽いバットの交互。
結果は、3グループとも約8.5%バット速度が上がり、グループ間の差はなしでした。
つまり「決めた本数を振ること自体」が、まず効きます。重さは二の次でした。
2. ただし、同じ動きの反復だけでは伸びが止まる
USA Baseball の長期育成指針(LTAD)は、「同一動作の反復だけでは学習が最適化されない。動作のバリエーションと組み合わせるべき」としています。
運動学習の研究でも、同じ課題を同じ順で繰り返す「ブロック練習」より、条件を混ぜる「ランダム練習」の方が、練習中の成績は落ちても、後で試合に持ち出せる力が高いことが繰り返し示されています。
野球での例です。
- 大学野球選手に6週間、追加の打撃練習をさせた研究(Hall ら1994)では、速球・カーブ・チェンジアップをランダムな順で打った群が、球種ごとにまとめて打った群より、転移テストで最も伸びました。
- 高校生11名に、利き側と逆側のスイングを4週間練習させた小規模研究(Sharp ら2020)では、ランダムに混ぜた群だけが有意に伸び、利き側で芯で捉えた率は63.4%→71.4%になりました。まとめて練習した群は伸びませんでした。
素振りに置き換えると、「同じ高さ・同じコース・同じテンポで100本」より、「高め・低め・内・外・速い球・遅い球を想定して混ぜる」方が、試合に持ち出せる可能性が高い、ということです。
3. 「言葉で直す」より「環境を変える」
もう一つ、大きな研究結果があります。アリゾナ州立大学の Rob Gray 教授は、経験ある打者を3グループに分け、6週間「打球を上げる」練習をさせました(Gray 2018)。
- 内的な言葉(「手をこう動かせ」)で教えた群
- 外的な言葉(「バットをこう通せ」)で教えた群
- 環境を変えた群:「越えなければならない障害物」を置き、上達に応じて距離と高さを変えた
結果は、環境を変えた群が打球角度・打球速度・フライ数・本塁打数のすべてで最も伸びました。別の研究(Gray 2020、40名のランダム化試験)でも、逆方向へ打つ練習で、言葉の指導は「どの球を振るか」は変えたが動きは変えず、環境を変えた練習が動きと判断の両方を改善しました。
素振りに置き換えると、「脇を締めろ」「上から」と言うより、ティーの位置を変える、ネットに目標を貼る、打つ方向を決める方が、動きが変わりやすい、ということです。
4. 1000回の前に、10球の記録
ここまでを一つにまとめると、順番はこうなります。
- 今のスイングで、何が打球を止めているかを見る。 振る速さか、芯か、軌道か、タイミングか、球の選び方か。これは動画で見ます。10球程度を同じ条件で撮り、打球の結果と空振り・ファウルを記録します。
- 止めているものに合わせて、変える条件を一つ決める。 ティーの高さ、立ち位置、打つ方向、テンポのどれか一つ。
- その条件を混ぜながら振る。 同じ本数でも、高低・内外・速い遅いを想定して混ぜる。
- 別の日に、同じ条件で10球撮る。 当日の良い数球ではなく、別日の記録で比べる。
「1000回振ったのに変わらない」の多くは、1で見ていないか、4で確かめていないかです。
5. 素振りは「高度な練習」
ソフトバンクのR&Dでスキルコーチを務める菊池拓斗さんは、「素振りは高度な練習の部類に入る」と言っています。ボールがない分、自分で動きを組み立てる必要があるからです。
研究の結論も同じ方向です。素振りは効く。
ただし、変化と記録がないと、伸びは頭打ちになります。
原因が違えば、必要な練習も違います。 1000回の前に、まず10球。
本記事の数値は第三者の研究・計測データであり、当塾の指導実績ではありません。研究の対象年代・条件は本文と出典に記載しています。